児玉建設株式会社

潜水工事一筋50年 

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2)防波堤の作り方

防波堤と護岸
防波堤の説明図

右図は漁港を上空から眺めた絵ですが、ひとくちに防波堤といっても 岸と接しているところは護岸と呼びます。また、船をつなげるピットがあるところを 岸壁と言い、同一直線上でもピットの無いところは、護岸です。



防波堤の構造
防波堤の構造図

防波堤も種類が色々ありますが、一般的なケーソン式の 断面です。海底地盤が良好であるなら海底に直接石を撒いて基礎とします。 潜水士により平らにならした後ケーソンを据え付けます。 そうして上部工、消波工を設置して完了します。



捨石投入
捨石投入図

それでは工事開始です。先ずは海上に測量して捨石を投入する地域に竹を重しをつけて 設置し、そこに通称ガット船(石材運搬船)を係留して捨石を投入します。 もちろん勝手に捨てられたらあとの作業が大変やりにくくなるのでバケットいっぱいごと潜水士がガット船に乗り込み船の上から合図しながら捨石を投入します。潜水士が投入指示をするのは、あとで自分が潜って均し作業(平らにする)を行うためです。凸凹が激しいと平らにするのが大変なので 真剣に投入指示を行います。ガット船は通常1隻当たり 1,000 m3 ほど石を積んでいます。これを2時間くらいかけて投入します。大変きつく、重要な作業です。 また潜水士は、自分の指示どおりにガット船の乗組員に動いてもらわないといけないので人の扱い方にも手腕が問われます。



捨石均し
均し状況図

捨石投入を終えた潜水士が潜水士船と呼ばれる小さな船から海に潜って手作業で石を平らに並べて行きます。これを「均し」と言います。 通常、木材杭を石の間に何本も打ち込み、そこに設計高さを測量して移し、さらに水平に木材を打ち付け基準の高さを得ます。これを「やりかた」と呼びます。鉄道のレールのように2列平行に設置した「やりかた」の上で角形鋼管を滑らせながら、それ以上高いところは石を取り、低いところは石を補充して平らに均していきます。 通常、捨石は10kg〜100kgですので平均して50kgとし、比重を2としたら1個の石は 0.025m3でその表面積は0.085uとなります。1,000uの均しを行うとすれば、潜水士は実に11,765個もの石を動かすことになります。 気が遠くなるようですが実際に海の中では総て手作業で均しを行っています。明治時代以降21世紀の現在でも依然変わらぬ施工方法で機械化の試行錯誤は行われていますが、この方法が最もコストパフォーマンスに優れた方法となっています。 海上工事の技術進歩が無いと見るか、人間の知恵を妨げる海の壁が厚いと見るかは意見の分かれるところだと思います。



ケーソン据付
据付状況図

均しが終了すると海上工事のメインイベント=ケーソンの据付を行います。 ケーソンはあらかじめ陸上、またはフローチングドックと呼ばれる船上で製作されます。最近は大型の起重機船が陸上で製作されたケーソンを吊り降ろすことが多くなってきましたが現在でも函台で製作して進水、曳航の現場もあります。それについてはまた、別の機会に紹介したいと思います。ケーソンは重量が何千、何万トンというものから500t という小さなものまで様々です。構造は至って簡単で鉄筋コンクリート製で壁厚40cm程度の四角な箱で中がいくつかに仕切られています。何千トンというケーソンが海に浮くのは中身が、がらんどうであるからです。海に物を沈めるとその物が海水を押しのけただけと同じ体積分の浮力が働きます。よって例えば7m×15m×15mのケーソンがあったとします。 壁厚さを40cmとすると重量は概略1,000トンになりますがそのケーソンが押しのけた水は 1,575m3で海水比重を1とすると浮力は1,500トンあまり有り、500トン分すなわち9mほど浮かぶことになります(500÷2.3÷表面積)。これでは安定しないので2mほど浮いた状態になるように砂や水を入れて調整しておきます。2mほど頭を出し、プカプカ浮いたケーソンを起重機船で基準線(法線:ほうせん)に据え付けます。測量しながら法線を合わせ、OKならばポンプで注水してケーソンを海底に着地させます。水が満タンに入ったところで据付完了となります。ケーソンは押しのけた水の量だけ浮力が働いていますが注水することによって浮力を失い基礎捨石上に着底します。船が浮かんでいるのも、浸水して沈没するのも、この原理のとおりです。
起重機船はとてつもなくでっかい船で工事全体のトピックスとして良く写真などで紹介されます。

参考ページ 起重機船の写真がたくさん(順不同)



中詰め砂投入
砂投入図

ケーソン据付が完了したらケーソンの中に砂を入れて重たくします。 ケーソンは着底して沈んでいても海中では、押しのけた水の量だけ浮力が働いています。前述のケーソンは陸上で1,000トンですが水中では600トンしか重さがありません。大きな波がきたらひっくり返ってしまうかもしれません。そこで重さを増すために砂を入れます。そうなんです、ケーソンは置いてあるだけなのです。自分の重さだけで成り立っている構造で重力式と呼びます。
 
中に入れる物が石ではないのは砂の方が値段が安いせいです(比重は石の方が倍くらい重い)。砂は砂船で沖合から採取してきて投入します。砂船は大変強力な水中ポンプを搭載していてそれを海中に垂らして砂を船倉に吸い込みます。砂船はガット船と違ってたいてい大型です。1隻で3,000m3搭載する船もざらにいます。普段はコンクリートの材料となるための砂を採取しているので工事に使用することが多いガット船とは少し、かってが違います。毎日岸壁の砂揚場に荷下ろしすることが多いのでこまかな船の移動など不得意な船舶もいます。
 
右図で砂船の右舷にあるのが砂採取用のポンプでこれを斜めに海底まで下げて砂を吸い上げます。ところがたくさん砂を取りすぎてだんだん海底が深くなってしまいパイプでは届かなくなってきたので最新鋭の砂船は図のような鉄管ではなくゴム製のパイプでリール状に搭載していて、より深いところでも採取できるようになっています。現在日本では砂の採取規制が厳しくなり、大きなプロジェクトでは海外からも輸入していることもあります。図は判りやすいようにケーソンの端部を断面図で描いています。



上部工・型枠設置
型枠設置図

さあ、いよいよ防波堤本体の完成へ向かいます。ケーソンまでは、ほとんど海の中で一般の人の目に触れることはありませんが、ここからの工事は目に見える部分ばかりになります。ですから、全体の中の部分としては小さい工程ですが、神経を使う工事になります。
まずクレーン船にて型枠と呼ばれるワクをケーソンの上に設置します。このワクで囲った部分にコンクリートを流し込んで防波堤の上部を完成させるのです。 この部分のおかげで防波堤は波を跳ね返します。重量も重くなって、より強い波も消してくれるようになります。



上部コンクリート打設
コンクリ打設図

クレーン船によりワクの取り付けが完成したら、いよいよコンクリートを流し込みます。セメントの粉に砂と砂利を混ぜて水を加えた物をコンクリートと 呼びます。化学反応でゆっくりと固まりますので、はじめのドロドロの状態でワクに流し込みます。数日するとカチカチに固まります。 ドロドロの時には、水のように流れるので狭いところでも入っていきます。 コンクリートのドロドロ具合や固まったあとの強さは、工事をするのに都合良く配合して作られています。
 
この配合をするのがミキサー船という特殊な船です。イラストに描いています。船体に砂と、セメント、砂利、水をたくさん積んでいて、仕事に必要なだけを その場で練り合わせてコンクリートを作り、ポンプで供給します。ひとつのコンクリート工場がそのまま船に乗っているのと同じ事です。 その船からコンクリートをもらい、ワクの中に流し込んで締め固めます。数日後、コンクリートが固まった頃に、ワクは撤去してしまいます。 コンクリートは、そのあとも1ヶ月くらいかけて、少しずつ固まっていきます。



消波ブロック据付
消波据付図

上部工のコンクリートが決められた堅さになったあとに消波ブロックをクレーン船で陸上から持って来て設置します。 テトラポッドが一般に有名ですが、いろいろな種類の物が工事に使われています。 また、波の大きなところには、ひとつで60トンもある消波ブロックが使われますが、波の小さなところには2トンや4トンといった小さな物が使われます。 それぞれ、あらかじめ陸上でコンクリートをワクに流し込んで作っておきます。十分に堅くなった頃にクレーン船で防波堤まで持ってきて 並べてゆきます。



完成
完成図

決められた数の消波ブロックを防波堤の前面に設置して、工事は完了となります。防波堤の高さや消波ブロックの数は、その場所に発生する 高波を設定して決められます。普段は、港を守っている防波堤ですが、先の東日本大震災のように、想定外の大津波が来たりすると、消波ブロックが 波で飛ばされてしまったり、防波堤のケーソンがひっくり返ってしまうこともあります。 しかし、防波堤はまったく役に立たなかったのではなく、津波の到達高さを低くし、到達時間を少しだけ延ばすことに役立ちました。

イラストのように一般の人が目にする防波堤も、実は見えるところの何倍も大きな構造をしています。 私達の仕事はこの一般の人の目に触れることのない領域ですが、港を守る防波堤や大量の荷物を受け入れる岸壁、大型船が安心して航行できる航路などを 作り維持することでみんなの日々の暮らしに大きく関わっています。これからも海の上の工事屋を応援してください。



1)不思議な言葉

私たちは作業船にのって日々仕事をしているわけですがその中で特殊な言葉が良く出てきます。
たとえば船を前に進めることは「ゴーヘイ」といいます。 後進は「アスタン」ですが、このあたりは完全に英語から来ています。 英語で前進は「 go ahead 」バックは「 astern 」なのでそのまま染みついたものでしょう。 まれに後進のことを「ゴスタン」と言う人がいますがこれは「ゴヘイ、ゴスタン」という使い方をするので単なる語呂合わせでしょう。

全馬力(馬力最大状態)にする事は「ホースビー」と言います。 「ホース」は勿論「馬」から来ていると思うのですが定かではありません。
letsgo.gif また、アンカーを落としたり魚礁を海に投げ入れたりすることを「レッコ」と言います。これは不可逆な操作をするときによく使います。すなわち一度「レッコ」された品物は 捨てられた物であると言うような言い回しですが、語源はおそらく「レッツゴー」だと思います。 「いまだ!それ!!」と言ってアンカーを落としたりしますのでそのまま 日本語になり、定着していると思われます。

語源を考えてみると面白く思います。おそらくは明治の頃に西洋の航海術を 学んで来た先人達の苦労が忍ばれます。

先ほどの「ゴーヘイ」等は簡単に解りましたが、他にも私たちが日常作業で使う言葉に 何とも不思議なひびきがあります。
それは物をクレーンで巻き上げるときに使う「ヒーボー」と 吊った荷を降ろすときの「スライキ」です。

使い方としては「巻け、巻け」と言うのを「ヒーボー、ヒーボー」と合図しながら行います。「スライキ」は「レッコ」と違いゆっくり降ろすときに使います。
特に潜水士は水中からの電話でしか連絡出来ませんので「ヒーボー」と「スライキ」は重要な言葉です。いつの頃からこう言うようになったのかは知りませんが 私が知っている限り北部九州一帯では通用いたします。全国的な物かは解りません。 自分で検証してみましたがよく解りませんでした。 おそらく「ヒーボー」は「ヒア ボーイ」では無いかと思います。「ヒア」は 適当な単語がありませんでしたが「ボーイ」は親しみを込めた言い方ではないでしょうか?
「降ろす」の「スライキ」はさっぱり解りません。

sino.gif また、ワイヤーロープを自分たちで加工する道具に「しの」と言う物があります。 店では「スパイキ」と呼ばれていますがこれが何故「しの」と呼ばれているのかは 謎です。

言葉の語源は歴史に繋がり非常に興味深い物があります。
香港へ旅行したときに「さよなら」を「ゾイギーン」と広東語で発音していました。 私は仕事で伊万里(佐賀県)へ良く行くのですがそこでは「じゃぁまたね」と言う意味で別れ際に「そいぎ」といいます。「それじゃぁ」と「ゾイギーン」が合わさって 「そいぎ」になったのではないかと密かに思っています。 伊万里は近くの有田とともに焼き物で有名です。 むかし広東地方から連れてこられた陶工達の言葉が今でも残っているのではないでしょうか?(確証はまるでないが)

また、韓国へ行ったときに町で若者同士の挨拶に「アンニョン」と言っているのを 聞き、ひょっとしたら我々が使う「あのう」の語源では無いかとも思ったりしました。

東南アジアなどへ行くとオートバイの事を「ホンダ」と呼ぶように一つの言葉には 長い歴史と深い意味が隠されているのでは無いでしょうか? 作業船で使われる不思議なことばに思いを巡らせ、かつて海外から土木技術を持ち帰り 苦労をかさね定着させていった先輩達の日焼けした顔を想像しつつ筆を置きたいと思います。

97/10/11

という事をあっちこっちで言い回していたら、回答が見つかりました。
海事代理士さんとのお話で航海用語辞典を調べてもらい、すぐに判りました。
「上げる」の「ヒーボー」は「 heave 」で、特に錨を上げるときの「かけ声」が
「 heave ho 」なのでそのまま「ヒーボー」ですね。

降ろすのは「 strike 」です。通常は「打つ、当たる」と言う意味ですが
航海用語として「旗などを降ろす」という意味があります。
しかし野球やボーリングの「ストライク」と私達が使う「スライキ」が
同じ言葉とは、意外でした。


しの考察・2015/07

最近、昔の職人道具をテレビで紹介しているのを見て驚きました。そこにあったシノ(スパイキ)は、図のような 形をしていまして、まさしく草書体で書いた「しの」そのものでした。
あっけなく謎は解けてしまいました。